「物語が生まれるカフェ」
コーヒーや紅茶の匂い、味、温もり。
それらが頁をめくる小説の世界や、言葉を交わしあう人達の空気に溶け込んでゆく。
緑の美しい大原に、豊かな時間を過ごせるカフェ「アピエ」がある。
店主・金城静穂さんの文芸誌『APIED』が並び、庭の蔵にギャラリースペースもあるこのカフェは、
文化サロンのような出会いの場となっている。
そこで出会ったのが人形屋・片岡佐吉さんだった。
今春、三千院への道中にある古民家に、人形館「マリアの心臓」が東京から移転した。
自転車に寄り掛かる男の子の人形に迎えられ、小さな赤い橋を渡り、大原の風やせせらぎを感じながら古民家に足を踏み入れる。
すると、幾体もの人形たちが瞳を光らせ、滑らかな肌を晒す光景に出会える。
その傍らで佐吉さんは美への敬意を語り、「アピエ」での偶然の出会いにささやかな奇跡を感じた。
カフェで過ごすひと時が、ゆったりと、日常を新たな世界に導く。
新人作家の私が書きたいと願うのは、そんな物語である。
中村理聖
自家焙煎珈琲&音楽読書空間
HiFi Cafe "NEW WORLD SERVICE" vol.17より
中村理聖(なかむら りさと)
福井県出身。
「砂漠の青がとける夜」で
第27回小説すばる新人賞を受賞して、
二〇一五年、作家デビュー。